当たり前の話ですが、映像の一番最初に何を映すかってとても大切なんですよね。小説の一行目、みたいな感じです。
- 分かりやすく状況を説明しつつ(いつどこで誰が何をしている?)
- どういう質感の映像なのかをイメージさせて(楽しい?優しい?怖い?不思議?)
- 且つ展開していく余地を残して興味を引く(この後どうなるのだろう?)
というようなことを、セリフとかテロップとかの言葉が無くても、映像的に表現することができるのです。
映画『セッション』のファーストカットはそういう意味で完璧だなと思いました。
暗い廊下の奥、真正面の部屋で、一人の人物がドラムに向かうカットから始まります。
状況としては主人公がドラマーで、ちょっと暗い緊張感のあるお話であることが伝わりますね。
さて、前の文脈がないファーストカットの場合、たいていの人はフレームの真ん中を見ます。
ところが主人公は中心点の少し上にいますね。この視点のずれは、パース線によって自然に人物へと誘導されます。
ど真ん中に主人公もパース線も配置するような撮り方も可能ですが、そうすると画の力が静止してしまうので、意図的にずらしているのだと思います。物事を真正面で捉えた画はそれだけで美しいのですが、単純すぎて何を見せたいのか漫然としてしまうことがあります。ほんの少しズレた要素を入れることで、そのズレに意識を引き付けることができるのですね。
ここから長回しでカメラはゆっくりと廊下を進み、主人公へ近づきクローズアップしていきます。構図的にもカメラワーク的にも真正面の人物を映しているのは明白ながら、フレームに対するサイズ感がかなり小さいですね。この被写体の小ささというのも、見る人の集中力を要求し、興味を引き付け、想像を促す役割を果たしています。
ファーストカットで作られた緊張感が最後まで途切れず続く、あっという間の1時間46分でした。クローズアップが多用されていて、フォーカスコントロールの完璧さに痺れました。音楽に打ち込む主人公とその師匠との狂気的な愛憎劇というかスポコンものというかなんというか、何かに打ち込んだ経験のある方には刺さるお話だと思います。是非見てみてください。例のごとくアマゾンプライムのリンクを貼っておきます。